福島第一原発の経過について・2

前記事の続きですが,twitterで流したところ,被ばく量の見積りについて勘違いが散見されたので,被ばく量の見積りの方法について概説します.
参考;
2011-03-17 - 今日も僕は生きている
放射線量率モニター更新中 (検索用キー:放射能) - 宇宙線実験の覚え書き

まず最初に指摘しておきたいのが,

放射線量が,1mSv/hの場合,1日に24mSv浴びることになる

というような主張がよく見られますが,これは誤りです.放射性物質放射線を永久に出し続けるわけではなく,出しながら崩壊して違う物質に変わって行きます.この期間を示すのがいわゆる半減期です.従って,積分値としての被ばく量を考える場合には,その半減期も考えなくてはなりません.
 
具体的には,単位時間あたりの放射線量が,{\it S}\(t\)={\it S}\(0\) 2^{-t/\tau}と記述出来るとしたとき,良く言われる放射線量はある時間での{\it S\(t\)}をモニターしていることになり,半減期\tauで記述されます.
 
さて,次に肝心の被爆量の計算方法ですが,技術のある人はこの関数を積分すれば良いのですが,そんなことをしなくても簡単に最大値を見積もれて,被爆量を{\it I}とすると,{\it I}{\it S}\(0\)\times \tau \times 1.44として計算出来ます.
 
技術的なことはこれくらいにして,具体的な被爆量の計算にうつりますが,前回に指摘したように,

さて,その放射性物質が到達までに薄まる過程には,大きくわけて,
* 核崩壊による強度の減衰
* 物質の濃度の拡散による効果
の2点が考えられます.

今まで説明してきたのは前者の“核崩壊による強度の減衰”にあたります.後者については長距離輸送されるうちに薄まって行く効果です.前回は軽くしか説明しませんでしたが,この効果はあまり強くは効きません.前回の再掲ですが,グラフから判断するに,1桁/50km程度にしかならないようです.(渋谷と,第一原発の最大強度を比べて下さい.少なくとも200km程度は離れているはずですが,落ち幅は10000分の1程度です.)もちろん,この数字は風向きさえ違う方向を向いたら0にもなりますが.
 
ここまできて,ようやくTwitterで流れていた,現地で1Sv/hの放射線が出た場合…のくだりが計算出来ます.まず,東京(渋谷)まで放射性物質が到達する間に濃度の減少によって,1Sv/hが,0.1mSv/hになります.そして次に,さきほどの計算式を用いることで,積算の期待被爆{\it I}mSv 〜 0.1\times 2.8\times 1.44mSV 〜 0.4mSv と計算出来ます.これはTwitterに流れていたように,レントゲンとかCTと比較すべき量のようです.
 
次に,この値の解釈についていくつか注意点を述べます.グラフからもわかるように何度か福島第一原発では大きな放出が起きているようですので,その度にピーク値は上昇します.よって,総被ばく量はイベント全ての積算と考えるべきでしょう.ここで今回仮定した1Sv/hという量は,今までに観察されている最大のピーク値,10mSv/hの100倍にあたります.つまり,単純に考えると,あと100回放出イベントが起きれば,東京の人は1回レントゲンをとったことになります.
 
最後に,もちろん,以上の解析は現時点では…です.今後事態がどのように推移するかによって事情は大きく変わりますし,現状を楽観していいかは正直確信が持てません.ですが,あえて,科学者としての本筋には反しますが,東京が致命的な事態に陥ることはあり得ない,と断言します.原発が問題ないとは思いません.その解決のために,本来なら被災者の救援に使うべきリソースが日々割かれています.一日も早い解決を心から祈ります.