福島第一原発の経過について・4

いままでの記事の続きです.
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放射線量率モニター更新中 (検索用キー:放射能) - 宇宙線実験の覚え書き
 
今回のメイントピックは,1.14日におこったこと.2.各地の放射線量と放出核種の関係について,3.今後の展望,の3本立てです,と思ったのですが,1を書き上げたら,予想以上に冗長になったので,2は省きます.今回は,我々が作成しているグラフ以外にも各所で公開されているデータを参考にしています.また,以下の概説は有志とここ*1にまとめているデータを使用しています.
 

1.14日に起こったこと(仮説)

以下に書くのは線量データを読み取った上で僕の考えた仮説です.絶対,そうだ,というわけではありません.繰り返し書いてきましたが,14日の夜,午後9時頃を境に現象の質が変わっています.また,その後の出来事との対応から考えると,関係している可能性が高いのは,2号炉,4号炉で生じた爆発,そして火災の発生です.以下に参考資料(PDF)*2からの抜粋をすると,

東京電力は、2号機の炉心損傷評価を実施し、「5%以下」と判断。(14日22:14)
・2号機の原子炉水位が低下傾向(14 日22:50)
・2号機で爆発音。圧力抑制室の圧力が低下したことから、同室に異常が発生したおそれ。(15 日6:20 頃)
・2号機での爆発音の発生後、4号機オペレーションエリアの壁が一部破損し、サプレッションプールの圧力が低下(15 日6:20)
・4号機で火災発生。鎮火活動中。(15 日9:38)


となっています.一方,3/12-3/18の線量の変化について,元データをあたると(参考*3),3/14の午後9時に最初のバーストが発生し,次に翌日の午前8時30分ー午前9時にわたって,2回目のバーストを観測しています.ここで,これらのデータを理解する上で,風の変化を追うのが重要になります.3/14の夜から,3/15の朝にかけての風は,1回目のバーストの直前には南東から南に変わり,そしてバーストの直後に北風へと変化しています.そしてこれ以降,風向きは,2回目のバーストの直前ー直後も含めて,北北西から北東の風で安定します.ここで,左図ではモニタリングポストと,原発の位置関係を示しているのですが,この時にモニタリングしているのは正門前とのことなので,4号炉からみるとほぼ真西.2号炉から見ると,若干南西に位置する場所でモニタリングしていたことがわかります.従って風向きとあわせ,簡単な方から考察すると,2回目のバーストは,放射線量があがりはじめる8時の風向きが北東であること,その直前のモニタリングの時刻が6:00であることから,2号炉の爆発に由来すると考えて間違えないでしょう.

一方,1回目のバーストについてですが,2号炉と考えるのは上記のデータから無理があります.ここで,4号炉で9:38に爆発が起こっている,ということは,この段階で相当量の水素が4号炉建屋内にたまっていることを意味します.これ以前の爆発を振り返ると,1号炉,3号炉共に,炉内の圧力を下げるためのベントを行ったある程度あとに,水素爆発が起こっているのですが,これは容器内で水面下に燃料棒が下がることにより,高温のジルコニア皮膜と反応した水素がベントによって外部に開放され,建屋内にたまったものであると考えられます.ベントを行った時間そのものについては,報道が2転3転していて信頼出来るソースを見つけられなかったのですが,データを見る限りでは,爆発の起こった時間のだいぶ前に大きく放射線量が上昇している*4ことからもそれがわかります.同じように考えると,4号炉でもそれだけの水素がたまるにはそれなりの時間が必要であること,そして1回目のバーストの直前に南東の風が吹いたことなどから,僕は4号炉の使用済み燃料プールの燃料棒がこれくらいの時刻に露出し始め,水素を放出しながら崩壊をはじめたのではないか,と考えています.ちなみに,この放出はこの後も,断続的,周期的に続いていることが各地のデータと照らし合わせることで推察されます.

1.0.断続的に放出が続く理由注;この項目は完全に僕の想像です.

こうした断続的な放出は,最初は4号炉のみだったのではないかと考えていますが,3号炉などでも見られるようになったのではないかと考えています.こうした断続的,準周期的な放出の防止はこの事故を終息に持っていくにあたって最重要だと考え,その理由を考えていました.その過程で色々情報も集めたのですが,その帰結として,この断続的な放出の理由として以下の3つの理由を考えました.1.原子炉の(報道されていない)周期的なベントによる上昇.2.使用済み燃料プール内における弱い再臨界.3.使用済み燃料棒の周期的破砕に伴う放出.です.それぞれの根拠と,それに対するありうる反論について概説します.また,これらは僕が思いついた,というだけであって,他の可能性を否定はしません.ちなみに個人的には現在は3番目が一番可能性が高いのではないか,と考えています.
 

1.1.周期的なベント

報道にもあるように,ベントのタイミングは2転3転しています.従って,実際にどのようにベントが行われているのか,については不明な点があります.また,もう一つ重要な点として,情報を収集する過程で,ベントには2つのプロセスがある,というのもわかってきました.それは(僕の理解が正しければ,ですが)圧力容器の圧を下げるためのベントと,格納容器にいった圧を下げるためのベントの2種類です.ここで,後者のほうを報道されている以外に頻繁,かつ周期的に行っているとすると,ある程度は説明することが出来ます.

これに対する反論としては,15日頃を境とする各地でのベースラインの上昇を説明しにくいこと,そして15日以降,(前項と若干重なるのですが)半減期の長い,それまでとはことなる核種の放出が推測されることがあげられます.これらは前者については15日以前に南相馬で上昇が見られ,それが風向きと一致することから,風によって偶然,出ていなかっただけ,という可能性はそれなりに高いと思われますが,後者について,特に第一原発周辺の核種が変化していると考えられることは説明しにくいです.また,周期的な上昇が見られたしばらくあと(典型的に数時間程度)に決まって(おそらくは)プールから白煙,ないし黒煙が上がるのが観察されるのですが,これはベントでは説明不可能です.

1.2.弱い再臨界

これは,僕が一番恐れ,このデータ収集を積極的に行った理由にもなっています.炉内には燃料棒の間に制御棒が入り,再臨界を防いでいますが,使用済み燃料ブールではそのような状態にはなっていません.また,本来だったらある程度はなされておいてあるであろう燃料集合体が,地震によって近くに集められた可能性も心配していました.この場合,周囲の水が減速材として働くことで,再臨界可能な状態になる可能性も高い,と考えたのです.この場合,再臨界した瞬間にまわりの水は沸騰し,そのことによって水が減速材として働かなくなることで再臨界は止まります.その後,またある程度たつと,また再臨界する,というサイクルが実現し,放射性物質の放出は準周期的になり得ます.15日の夜中に中性子線の観測が報告されているのも不安材料です.また,一連のプロセスによって放出される核分裂生成物は,本来だったら(使用済み燃料棒とすでに止まった炉内)ほとんど出ないような比較的短時間(〜3時間程度)のものも含むことになり,15日以降の減衰曲線の変化とも一致します.

これに対する反論としては,そもそも燃料棒,そして燃料集合体を格納しているラックには多量のホウ素(中性子の吸収剤)が含まれており,再臨界する可能性は低い,というものがあります.また,そもそもこれを考慮した一番の原因は3号炉と4号炉の使用済み燃料プールの水の減りがあまりにも早いことでしたが,4号炉についてはすでに入っている使用済み燃料からの発熱を計算すると,水の無くなる時期が定性的にあうことがわかっています*5.一番の問題は,比較的短い(半減期3時間程度)核種の存在ですが,これが当初書いたように,88Kr(半減期2.8時間)だとすると,これは核分裂の1次生成物なので問題なのですが,132I(半減期2.3時間)だとすると,これは132Te(半減期3.2日)から生成されるものなので,あり得る話です*6.次に,中性子の観測はプール内での核分裂だとすると,正門までの距離1kmは若干遠すぎることがあり,むしろ核分裂に伴って出来る比較的重い元素(252Cfなど)が自発核分裂を起こすのでそれを観測した可能性があります.ただし,この場合は格納容器,ないしそこにつながるどこかが若干壊れていることを疑う必要があると思います.また,やはり再臨界説では,白煙ないし黒煙の上昇と放射線量の増大との時差は説明出来ません.最後にもし,本当に使用済み燃料プールで再臨界しているとすると,観測されている放射線量の値がもっと跳ね上がらなくてはおかしいのではないか,という点も上げられます.

1.3.燃料棒の周期的破砕

最後に何らかの理由でプール中の燃料棒が周期的に破砕され,それが周囲にまき散らされることによって上昇がおこった,というものです.”何らかの理由”の部分をあと回しにすると,もし,こうしたことが起こったとすると,破砕した燃料棒はあたりに散らばることになり,その行き場所次第ではまわりの温度を上昇させて火をあげることも可能でしょう.飛び散った燃料棒により引き起こされた煙と,燃料棒に含まれていた核分裂生成物の飛散に伴う放射線量の増大との時差についても説明可能です.ここで問題なのは”何らかの理由”ですが,僕は燃料棒の加熱に伴い,水位が次第に下がっていく点に着目しました.ある程度時間が経つと,当然,燃料棒よりも下に水が来ることになります.そうすると当然,高温のジルコニア被覆と水の接触に伴う水素の発生が生じますが,同時に水面上にある部分と水面下にある部分では凄まじい温度差が出来ることになります.従って,その場合には強烈な熱応力がその境にかかることになり,被覆と水の反応によって強度が失われていることも手伝って,破砕しやすくなっている可能性はありそうです.この場合,弱くなっている部分,従って水面上に出ている部分のみが破砕するとすると,一度破砕がおこり,その時に燃料棒をまき散らしてしまえばしばらく同じことは起きません.これが周期的になる理由です.

これに対する反論としては,本当にそんなことが起きるのか?という一点に尽きます.特に,その前に融解しないか,とかは重要でしょう(もしかしたらそれが白煙の理由かもしれませんが).自己発熱体が温度差を作っている過程なわけですから先行研究もほとんどないでしょうし,実際のところは良くわかりません.考察とデータとはそんなに大きな矛盾は無いですが,そういうストーリーを考えたのだから当たり前とも言えます.

以上で,周期的な変化に対する考察は終了です.もし,3番目のストーリーならば,燃料棒の長さは有限なので,何回か繰り返した後に大きな増大が最近見られていない理由もある程度は納得がいきます.特に,ここ数日のデータから見る限りでは小さなバーストこそあるものの,以前に見られていた3時間程度の減衰はなくなりました.ただ,これは僕の希望的観測も含むことを申し添えます.
 

2.放射線量と放出核種

事故からそれなりに日が経過したこともあり,放出核種についての情報がだいぶ出るようになってきました.多くの人にとって,記憶に新しいのは金町浄水場などでの21日の雨に伴う,暫定基準値を上回る放射性ヨウ素(ほとんどは131I)の検出でしょう.また,昨日のニュースではで原子炉近辺でプルトニウムが検出されたことも報告されています.これらについては違う記事で概説します(というか,多分,あまり重要じゃない.).
 

3.今後の展望

一番の問題は今後どのように事態が推移するかでしょう.原子炉の現状としては原子炉周辺の線量の推移が,たまに小さなバーストを挟みつつも,ゆっくりと減衰してきており(最近の半減期は131Iによるものと思われます.),このまま落ち着くことを期待させます.ただ,ここで留意しておかなくてはならないのがここ数日の風向きがほとんど西風であった,という事実です.断続的な白煙の上昇は続いたのがここ2,3日報道されていないのが本当に無くなったのか,余りにも毎日のようにあるので,報道機関が飽きたのかも気になるところです.

何はともあれ,短期的に一番心配なのは,格納容器の破損問題でしょう.今まで壊れてきたのは建屋に限られてきました.しかしながら,例えば現在格納容器内にある一定量たまっている可能性のある水素に引火するなどして格納容器が壊れてしまうと,中の放射性物質がむき出しの状態になり,さらに大量の放射性物質が漏れだすことになるでしょう.その場合,3月31日6時現在の情報によれば(参考資料 *7),原子炉の内側では最大で約40Sv/hの放射線量があるそうですから,原子炉の近くで100mSv/h程度の放射線量だった,という過去の報道から単純計算すると,現在の1000倍近い放射線量になることになります.ここで単純に比例計算すると,概算で福島で10mSv/h,東京で0.1mSv/hに達する可能性がある,ということになります.つまり,格納容器について,現時点で少し壊れている,という話もありますが,少なくとも現在のレベルでおさえることが重要だ,ということが言えます.そうすれば,福島あたりでも土壌の入れ替えなどの手段を通じて復活出来るのではないかと想像しています.

中期的,長期的にはいかにして今,むき出しになっている原子炉,冷却水を封じ込めるか,という問題がありそうです.少なくとも梅雨が来るまでには封じ込め部分についての決着をつけたいところなのだと思うのですが,さすがにそこまで来ると生物的な影響をどう評価するのか,という話になるので,少し僕には難しいです.

最後に展望について悲観的なことを述べましたが,僕が保安院発表の資料から考察した範囲だと,圧力容器はそれなりに健全性を保っているように思えます(各物理量がそんなに突飛じゃない.).また格納容器も同様です.現状が楽観出来る状態では間違いなくありません.事態の完全な終息には長い年月が必要とされるでしょう.しかし,当たり前のこととは思いますが,今回,心配になって色々と調べる過程で,専門家の方々が問題の解決に携わっている,というのも見えてきました.メールのやりとりを通じて,僕たちの解析も少し役に立ったのではないかと思います.それを確認したところで,少なくとも僕の今回の原発事故との関わりはいったん終了とします(データ集積,及び簡単な解析くらいはすると思いますが).今回のことでは本当に,本当に多くの方々にお世話になりました.ある程度,事態が収束したと確信出来たとき,改めて総括したいと思います.

*1:福島第一原発放射線量観測データ;有志でデータ集積中.

*2:原子力安全・保安院発表;地震被害情報(第24報)(3月15日11時00分現在)

*3:東京大学佐野研究室作成

*4:水素と共に,核分裂生成物の一部として出る希ガスが放出されていると考えられる

*5:東大佐野研の学生さんの計算によります.ただし,3号炉の使用済み燃料プールについてはやはり早すぎるようです.

*6:今回のデータで半減期2〜3時間は一応誤差の範囲だと思います.

*7:原子力安全・保安院発表;地震被害情報(第64報)(3月31日08時30分現在)