福島第一原発の経過について・3

いままでの記事の続きです.
いくつかのデータの更新は他のグループと合流し,だいぶスムーズになってきました.
また,主に友人ですが協力して頂いている皆さん,本当にありがとうございます.
2011-03-18 - 今日も僕は生きている
2011-03-17 - 今日も僕は生きている
放射線量率モニター更新中 (検索用キー:放射能) - 宇宙線実験の覚え書き
 
ぼちぼち各所で様々なグラフが公開されていることもあり,色々なことに気がついている人も増えだしています.基本的には客観的な事実を述べるにとどめますが,どうしてもショッキングな形になってしまうかもしれません.もし心配になったら,周りのグラフをきちんと読める人を探して解説を求めて下さい.放射線は確かに怖いですが,別にすぐに死ぬわけじゃありません.そして,少なくとも南関東はどう厳しく見積もっても大丈夫です.パニックになって本当に困るのはもっと北の人たちです.関東の人間が騒いでいる以上に,福島の方のほうが不安です.そしてもっと北の方たちは,正に今,物資を必要としています.必要以上におびえて北に物資が届かなくなる,なんてことにはならないで欲しい.僕は東京で解析しているだけで卑怯だとは思いますが,これだけは切にお願いします.
 
今回のメイントピックは,1.今回の事故の経過をモニタリングする上で一番注目するべきポイント,2.放水の効果の判定基準,3.各地の放射線量について,の3本立てで行きます.あらかじめお断りしておきますが,これは一緒にデータを取得している仲間,全ての合意事項ではありません.またここの解析は再掲になりますが,放射線量率モニター更新中 (検索用キー:放射能) - 宇宙線実験の覚え書きを基準にしています.煩雑なグラフではありますが,現象を理解する上では必要な情報が詰まっているので,下記を読んだ上でグラフを読める人に解説してもらうといいでしょう.逆に東京をはじめとする遠方の都市が安全かどうかを判断する基準には少しなりにくいです.もう少し言えばはっきり言ってそんなところに興味はありません.乱暴な言い方をすれば,そんなもの安全に決まってる.
 

  • 1.今回の経過のポイント

私見では,今回の事故をモニタリングする上で重要なのは放射線量の絶対値そのものではありません.もちろん,それも重要ですし,一般の方の関心はそれかもしれませんが,事故が終息に向かっているかどうか,ということを判断する上では違います.最初の記事で,3月14日午後9時以前と9時以降で起こっている現象が明らかに違うことを指摘しました.最初の記事では若干ぼかしましたが,一番重要なのは周期的な放射性物質の放出の立ち上がり(バースト,と僕は呼んでいます.)で,次にその緩やかな緩和です.特に一番目でポイントなのは,15日以降,特に人為的に何かしているわけではないのにバーストが見られることです.つまり,これはバーストをトリガーするような何かが原子炉で起きていて,それが継続していることを示しています.逆に言えば,これさえ止めることが出来れば,今回の事故は終息に向かう,と考えて良いのだと個人的には考えています.
 さて,ここで,WEB上で流布している幾つかの疑問と,当然出るだろう疑問に答えて起きます.まず,後者について.グラフからは第一原発の周辺で,バーストは起きていないように見える,という疑問が生じると思います.それに対する答えは簡単で,最近の原発周辺のモニタリングを原子炉に対して風下で測定してないから,というだけの話です.もちろん,モニタリングされている方の健康のことも留意する必要がありますから,現場としては当然の判断だったのかも,と想像しますが,サイエンスとしては間違いです.当然ですが,一番いいのは,原発を取り囲むようにモニタリングを行うことであるのは言うまでもありません.次に,前者について.昨日の2号炉の白煙の後くらいから,第一原発正門前の値が跳ね上がる傾向が見られるのですが,それと各地の跳ね上がりが同期していない,むしろ前にきている,という指摘が各地でされつつあります.それに対する答えはおそらく,第一原発周辺のモニタリングで引っかかっていないバーストが起こった,というのが答えです.状況証拠ですが,15〜16日に度重なる火災や白煙の発生が3号炉,4号炉で起きましたが,その発生と,放射性物質の上昇は必ずしも同期していません.むしろその数時間前に起こる傾向があります.今回も同じことがおそらく起こったのでしょう.ちなみに,16日以降も規模の大小はともかく,バーストが起きていることは原発周辺のデータからはわからなくても,近くの都市の値をモニタリングしていることである程度わかります.もちろん,強い偏西風に乗っている時はその限りではないのですが.

 

  • 2.放水の効果について

これについては,バーストを止める効果はなかった,というのが答えでしょう.放水後に放射線量が下がった,という報道がされていますが,これは単純に半減期の効果で下がっているに過ぎません.言ってしまえば当たり前です.先に書いたように,バーストを止めることが重要です.あと,報道で,放水中に60mSv/hまで線量が上がったが,終わる頃にはほぼ0になった〜というような記述が見受けられましたが,単純にその時にバーストが起こっただけだと思います.各地のデータ(確か南相馬)とも整合します.

 

最初に,この項目については,不確定な要素があまりにも大きいことをお断りしておきます.特に線量の絶対値がどれだけだから,健康に対してどうだこうだ,という評価は正直僕には無理です.個人的には,レントゲンくらいか,とか,僕が実験で浴びたくらいか,余裕だな,とかそういう判断をしているに過ぎません.それでは各地の放射線量の読み方です.これに関しては正直,全くわかりませんが,楽観出来るものではないようです.長期的な評価はプロの人にやってもらうとして(僕にはさすがにそこまでの責任はとれない),現在,放出されている,というか,各地の放射線量の主役を担っている物質は,どうやら132Teと131Iのようだ,ということのようです.その場合,半減期はそれぞれ約80時間,8日ですので,それぞれ今,自分の地域で観察されている線量(mSv/h)にファクターとして,110,300をかけて下さい.そうすると期待被曝線量(mSv)が出ます.どちらをかけるかは傾きによりますが,とりあえずは110をかけておけば間違いないでしょう.132Iの方は絶対値としては少なく出る傾向にあるようです.ここで計算したのはあくまでこれは期待被曝量の最大値であることもお断りしておきます.ただし,今後のバーストの動向によってその値は変わる(具体的には増える)でしょう.次に,バーストが起きた時,自分のところにどれくらいの時間で到達するかですが,まず重要なのは原子炉からの風向きです.それが自分の方を向いているかをまず確認して下さい.時間としては大体典型的に50〜100km/hくらいのスピードで到達しているようです.次に,自分の地域で過去,どこらへんまで放射線量があがったかを確認して下さい.それくらいは来る可能性があります.逆に,それ以上は原子炉にさらに不幸な進展が無い限りは来ないのではないかと思います.また,屋内に退避するのはかなりの効果があるようです.

 
これで以上ですが,最後に,今回,本当に一番書きたかったこと.僕の尊敬する後輩が,今回の事故に関連して,以下のようなことを書いていました.これは今,情報を発信している全ての科学者の人が心にとめて欲しい.知識は必ずしも人に安心を与えることは出来ません.事実はどこまでも公平に事実です.そういう時のために僕らは知恵を磨いてきたのだと思います.今,僕らが持ってる知識と知恵を使わなくていつ使うのか.僕らはもはや傍観者ではないし,今はサイエンスコミュニケーションをしている時でもない.

原発の被害の問題については、「真理」がまさに今、国(政府や政府の側に立つ学者)によって作られようとしている。ここで決まる数値やその他の基準によって、20年後、30年後に癌を発症した被曝者が、被災者として認定されるか、補償を受けられるか否かが決定されることになるだろう。例えば、現在福島近隣に居住し、その後の放射能の蓄積によって後から発病した患者は、この基準をめぐっていつ終わるとも知れない裁判を闘うことになる。
学問は、このような過程に対し、決して無責任ではいられない。