最近の各地でのI-131の検出について

久しぶりの更新です。。。が、学会前できちんと色々考えている時間が無いので、誰かがかわりに調べてくれることをほのかに期待して、更新だけしておきます。(注意;下の文章で一瞬だけ臨界を起こす、という表現をたびたび使っていますが、核爆発のようなものとは切り離して考えたほうが実情に近いと思います。核反応生成物の大量生成が行われる、程度の意味の方が多分、意味合いは近いです。)


追記 2011/9/16 18:39
下記の件について、8月16日〜18日に各地で大雨が降った事実を無視しているのではないか、という指摘を受けました。確かに下記の内容の先取りになりますが、1)雨により、各地の放射線量が上がり、それとは別に2)医療由来の131-Iが発生した。という解釈も出来ると思います。その場合でも、一番大きく上がったときの直後に下水の値が増加しているのは気になるのですが…その場合、1号炉の8月16日〜18日の放射線量の急上昇は、偶然か、計器の故障、ということになります。どちらにしろ、下記の書いたことと若干矛盾しますが、医療由来である、ということが確かめられればもちろん、それが一番良いとは思います。
追記終わり


内容は表題のように、最近、各地で話題になっている下水浄化施設での131Iの検出についてです。例えば、こちらの奥州市の下水道施設では131Iが8月下旬に急上昇しています。他にもきちんと調べているわけではないのですが、全国で同じように上がった地域が多々あるようで、単純に見過ごすことはできません。話題になりだした直後に、医療用の131Iに由来するものである、というような説もありましたが、正直この説には穴も多いことも指摘しておかなくてはなりません。例えば、その根拠としてよくセシウムが上昇していないことが指摘されますが、それはセシウムヨウ素半減期の違いを無視したあまりにも乱暴な論旨です。3月11日以後、放出された放射性元素が全て3月に放出されてその後は放出されていない、とした場合、ヨウ素はざっくり言って100万分の1以下になっているはずですが、セシウムはほとんど変わりません。この状況で、3月に出た量の100分の1の量が新たに放出された、としたらどうなるでしょう?ヨウ素は現在残っている量の1万倍以上に跳ね上がりますが、セシウムの量はほとんど変わらないはずです。逆に言うと、8月下旬に原子炉からの新たな放出があったとしても、量的には3月の放出と比較すれば十分に少ないと考えられる、という主張なら多分、概ね正しいとは思いますが、問題視されるべきかどうかはまた別の話です。僕はすべきだと思いますが。


個人的にありうる可能性としては、1)原子炉内部にたまっていたものの放出、2)原子炉内部の燃料が瞬間的な臨界を起こし、生成された反応生成物の放出、の2つを疑っています。他にも可能性はあると思いますが、僕には思いついていません。1点目は要は元々、膨大な量の放射性物質が原子炉内にあったわけだから、いかに100万分の1になったとはいっても、それが出てきたら数値が上がるだろう、というものです。正直、こっちのほうが個人的にはいいと思うのですが、これはそれこそセシウムの値が上がっていない、というのが反論材料として残ります。2点目は最近新たにわずかな量だけれども臨界が起こって核反応生成物が作られた、というもの。これが起こっているとすると、原子炉の冷温停止など全く出来ていないことになり、今後の除染計画などの上でもあまり好ましくないと思います。


こうした疑いを持つ根拠として、3月の経験があります。最初、我々が放射線量の情報収集、分析を始めたとき、一番恐れていたのは、原子炉からの放出をとめられない(≒制御できない)事態になっていることでした。実際、3月の大量放出がはじまったとき、周期的な上昇が見られているにも関わらずその原因がはっきりしない(多分ベントは関係ない)など、不可解な点が多かったわけです。あの時、僕が個人的に疑っていたのは使用済み燃料プールの燃料のラックの損傷に伴う瞬間的な再臨界の発生でした。これはその後、いろいろ調べた結果、少なくとも今後継続的に起こるような事態は脱しただろう、と判断出来たこと、また専門家がきっちり動いていることを確認できた、という2点をもって本業もあるので、個人的には少なくとも解析作業からは撤退しました。


もちろん、わからないことが多いわけで結論めいたことは何も言えないのですが、原子炉が停止してからの経過日数、状況的にあの時の使用済み燃料プール(特に3号炉)と、今の原子炉が似た状況であることも頭には入れておいたほうがいいと思います。もちろん、むき出しになっているかなってないかの違いはありますが、逆に言うと、その程度の違いしかありません。原子炉内部の燃料棒格納ラックがほぼ間違いなく破壊されていることを考えると、使用済み燃料プールよりも状況は悪いかもしれません。もちろん、あの時とは違って冷却はされていることになっているのですが、炉心内部の燃料の状況なんて誰も知らないわけで、一瞬だけ臨界を起こす、みたいなことは未だに起きていても別に不思議ではない、というか否定するに足る根拠を僕は知りません。


いくつか、有志の方が前後のデータを集めているのもちらほら目にしています。前後に起こったことを検証するには、その周辺の日時でMPの値が跳ね上がった場所がどれだけあるか、全国各地(特に関東近辺)の市町村の下水処理場の汚泥の値の推移。その周辺の日時の天候(特に風向き)を確認する必要があるのですが、全国の放射能濃度一覧で確認した範囲では、8月20日前後に各地で放射線量が跳ね上がっており、1号炉の原子炉内の放射線量も20日より前に測定器の測定限界を超える範囲まで振り切れている、というのは重要かもしれません(ただし、1号炉は常に乱高下している)。このようなことがあった以上、1号炉の乱高下の理由がなんだと考えられるのか、というのは良く考える必要があると思いますし、今、どういう体制で調べているのかを東電・及び国は明らかにするべきだと思います。


ということで今回は以上です。最初に述べたように、時間が無いので、ぱっとデータを見てわかることだけつらつらと書いてみました。